ある錯覚の未来 X

宗教を廃止した後に残るものは知性である。
強い情動の流れに対するのに知性の力はいかにも弱いのだが、他に頼れるものはないのだ。

知性の声はか細い。しかしこの声は誰かに聞き取られえるまでは止むことがない。(20-61)

フロイトはオランダ人ムルタトゥリの言葉をひき、宗教に代わってアナンケー(苦境・運命)に対峙するものとして、ロゴス(理性)をあげている。
めざすところは隣人愛と苦悩の軽減である。

神に変わってロゴスによって世界の営みを説明しようとするのが科学である。

宗教が与えてきたものを科学は与えられない、という批判は今日でも続いている。しかし、科学が与えられないというそのものは、錯覚としての快なのである。
そもそもないものねだりなのだ。

いいえ、私たちの科学とは錯覚ではありません。でも、科学が与えてくれないものをどこか他のところから得られると信じるなら、それは錯覚というものでしょう。(20-64)