こころ [Kindle版] 夏目 漱石 (著)

彼岸過迄」「行人」に次ぐ後期三部作の最終。
夏目漱石の代表作として最も読まれている作品かもしれない。

高校の教科書にも載っていた。
私の高校の国語の先生は、高校生への教材としては早いとかなんとかいう理由で、同じ漱石の「それから」を使っていた。

たしかに、ここから夏目漱石に入る、そしてもしかすると漱石で読んだのはこの作品だけってことになるのはあんまりよろしくないような。
ヘッセの代表作とされる「車輪の下」を思い出す。これも暗い作品だった。

夏目漱石の悩み、暗黒面、病理を端的にあらわしている、という意味では重要な作品なのかもしれない。
しかし、それにしてもあまりに暗い。
「行人」も暗かったが、もっと暗い。

<いまさらですが、いちおうネタバレ>

夏目漱石は三角関係をよく書くといわれ、その代表作のようにも言われるが、これは三角関係なのだろうか。
だいたい、先生からお嬢さんへの愛というのがよくわからない。
お嬢さんの描写があまりなくって、先生がどんな風に好きだったのか、そこがちっとも伝わらない。
むしろ、Kというライバルがあらわれたことで、たいして好きでもなかったのに嫉妬が燃え上がってしまったように見える。

先生の死というのも、やはり納得できない。
ひどい罪悪感にさいなまれた、というのはわかるのだが、普通に考えても結ばれたお嬢さん=妻のためにも生きるべきでしょう。
妻に本当のことを伝えて傷つけるのに忍びないみたいなことが書かれているが、死んじゃったらもっと傷つけるのではないか。ちょっと言い訳っぽく思える。
やはり先生のお嬢さんへの愛は、はじめから本物ではなかったのではなかろうか。

初期三部作の「門」の終わり方の方が好きだ。
こちらはライバルが死ななかったというのもあるが、最後は妻との平凡な生活がまた続いていく。

話の本筋から少しはずれるが、漱石の作品には、高等遊民と呼ばれるような、仕事をせずに暮らしている人がよく出てくる。
先生も、親類に財産を騙し取られた、といいながらも仕事をせずに暮らしていけているのだ。
ここのところが、現代の感覚からいうとピンとこない。

やはり仕事をしないというのは、不健全なことなのじゃないだろうか。
先生も、仕事をせざるを得ない状況だったら、死なずにすんだのではないだろうか。

<追記 H25.4.2>

夏目漱石はどうしてこの作品を書いたのだろうか。

作家は作品に対して、神のような立場にいる。
漱石という神が、主人公の先生に過酷な人生を与えて、罪悪感のあまり自殺に追い込んでしまった。
読みながら、そういう想像が頭に浮かんだ。

あるいは、小説は読者にとっても、作者にとっても、ある種の願望充足である。
漱石にとっては、このような小説を書かざるを得なかった。
そうして、そういう漱石の小説が日本人に受けているということも。